あの返却口に何が返却されるのか気になる。
昨日の夕方近く、自分が住むマンションの自転車置き場の前で、パンクしたクロスバイクのチューブを交換していた。そこに、電動自転車を押しておばさんが入ってくる。こんにちは、と小さな声であいさつする。見たことのないおばさん。ひょっとしたらセールスの人かもしれない。相手も少しけげんそうにしていた。けれど、自転車置き場の側で後輪を丸ごと外し、タイヤからチューブを引っ張り出している姿を見て、僕がこのマンションの住人であることを疑ったりはしないだろう。
駐輪場にその電動自転車を停めたければ、どうぞ。
パンクの修理、なかなか大変そうね。
どうぞ、お構いなく。
ええ、そうさせてもらうわ。それに、私はここの住人じゃないし。
そんな会話が、音もなくすれ違っていたのかもしれなかった。けれど、お互いの関心の地平はそこまで延びることはなかった。私はあなたに興味がない。
それから、数分も経たないうちに、おばさんは別のおばさんを連れて、駐輪場から自転車を出し、去っていった。その間、僕は顔を上げることもなく、黙々とチューブの交換に励んでいた。