2014年9月15日月曜日

中央線快速東京行き

夢、というとき人は空を見上げ、欲望、というとき人は下を向く。
本音を語るときは、じっと目を見つめている。

あなたの「夢」はなに?
武蔵境のフリーペーパー「iisakaii」vol.13に、そんな質問の回答を集めたコーナーが掲載されていた。

「退職後の人生を楽しむために、若いうちに沢山働く」(10代女性)
「幸せな家庭を築き親孝行をしたい。将来は武蔵野市に住みたい」(20代男性)
「結婚して退職しパートとして働きたい」(20代女性)
「悔いなく人生を終えたい」(60代男性)

中央線で遭遇する名前も知らない人たちも、こんな夢を抱いて電車に揺られているのだろうか。毎朝毎晩、親や友人とだってしないくらい身体を密着させ合い、黙ってスマホの画面をみつめつつ運ばれていく人たち(オレ含む)。

小沢健二の曲に「戦場のボーイズ・ライフ」というのがあったけれど、通勤電車に乗っているとまさに戦場という感じ。戦場のリーマン・ライフ(〜報われる日を信じて〜)……、でも乗っているのはサラリーマンだけじゃないよね。

まあ、このアンケートには、ほかに「世界征服」といったチャーミングな回答もあったのだけれど。

2014年9月7日日曜日

あるコーヒーチェーンで

あるコーヒーチェーンで本を読んでいたら、突然わめき声が聞こえてきた。

横に長い店内の奥のほうに座っていた僕は、その声の主が誰だかわからず、きっと入り口のあたりで、誰かが痴話げんかでもしているのだろうと思っていた。しかし、それにしては女性のきんきんとした声が響くばかりだ。

しばらくしても、女性の声が止まない。僕はちょっと気になって、席から身を乗り出して入り口のほうをのぞいたが、誰かが口論している様子はなく、レジでも店員が平然と下を向いて何か作業をしている。

何かおかしいと思いつつ、漫然と店内を眺めていると、ちょうど自分の直線上に声の主を発見した。険しい顔をして、わめき続けるおばさん。だが、彼女の前には誰もいなかった。

ほっそりとした上品な佇まいのおばさんは、虚空に向かって耳障りな声で何かを訴えている。しかし、何を言っているのかはまるでわからない。

大学生くらいの男の店員がおばさんの近くにいって、声を落とすよう注意するが、おばさんはかえってエスカレートしていく。

「あやまりなさいあやまりなさあやまりなさいよーっ」
句点も読点もなくまくしたてる言葉から、そんな一節が聞こえてくる。平謝りして立ち去る店員。それからしばらくして、その店が入っている商業ビルの警備員が店内に入ってきた。

おばさんは、その警備員に対しても「おゆきなさい」だとか何だとか言って、立ち去らせようとする。

警備員はおばさんを無理やり退出させようとはせず、帽子をとって腰を落とし、目線を低くして、おばさんの言葉をひとつひとつ受け止めるように、うんうんとうなずいている。

そのやり取りが10分は続いただろうか。警備員が頭を下げ、入り口を手で示すと、おばさんは渋々といった感じで立ち上がり、店を出ていった。

警備員は店の外に出て、おばさんの後ろ姿に頭を下げて見送ると、すぐに店内に戻ってきておばさんの隣にすわっていた女性(よくずっと座っていたものだ)にも頭を下げた。

頭に白いものが混じる初老の警備員。

いやあ、なんか泣けてくるよ。
働くってこういうことなのかな。

……
離れた席から見ていた僕は、冷めたコーヒーを前にしみじみと感じ入った。
おばさんの事情も、事のきっかけもわからずじまいだったけれど。